FIU Japan創立趣意書
自由国際大学(FIU)は、ドイツの芸術家ヨーゼフ・ボイスによって創始され、いまヨーロッパ各地にひろがりつつある運動である。その目的と理念は、第1に、教育と学習を国家の占有と管理から解放して民衆自身の手にとりもどすため、第2に、社会的分業によって細分化された専門・職業の枠をこえるため、第3に、人間本来の創造性、自己決定性、全的な自由を回復するため、現在の社会体制の根本的変革の道をきりひらくことにある。
大学といってもここには、固定したキャンパスも教室も、社会的地位としての教師も学生も、まして入学試験も卒業資格も一切ない。連絡の中心としての事務所と、月2回ほどの会合があるだけで、そこにはだれでも参加できる。一定期間の活動を経て、年1回の総会で適格とみとめられたものは、会員となって会費を負担し、ほかに団体・企業などから寄付をつのることができる。ただその理念は参加者によって共有され、眼にみえないバクテリアのように人びとの意識に入りこんで、社会変革の原動力となるだろう。
1984年6月、ボイスが来日したとき、スーパースターとしての彼に対する熱狂がひろがったが、わたしたちはボイスの思想をより深くとらえて、FIU Japanの創設にふみだしたのである。国際的なFIUには本部も支部もないから、日本からデュッセルドルフ事務所に上納金や報告書を送る義務もなく、逆にどこからか日本に指令や割当てがくるわけでもない。ボイスとヨーロッパのFIUの経験は、わたしたちにとって学ぶところ多いとしても、日本のFIUにはまた独自な展望、方向、スタイルがつくりだされるべきだろう。その意味で、当面確認できる活動方針を列挙しておきたい。
(1)FIUは一定の綱領・教義・ドグマから出発した一枚岩のピラミッド型組織ではなく、内部に多様な意見があることを前提として、ゆるやかで重層的な共同性をつくりあげようとする。したがって、討論が多数決によって集約されるときでも、少数意見を単純にきりすてず、重要かつ強力な少数意見はつぎの会合でかならず議題にとりあげて再検討して、多数決制の限界の克服をめざす。
(2)さしあたり、FIUの理念追求の基本文献は、ヨハネス・シュトゥットゲンの論文である。さらにボイスの制作と活動をめぐる文献、ボイスが大きな影響をうけたルドルフ・シュタイナーの著書とその思想的遺産、アッハベルク・サークルを中心とする〈行動・第3の道〉の文献などが、わたしたちの学習の手がかりとなるだろう。だが、それらを適用すべき現代日本の支配構造は、すでにあらゆる反体制と変革の運動を閉塞させつつある精巧無比のもので、わたしたちの批判的分析の作業はこの点にこそ集中されなければならない。
(3)政治・経済の支配と結びつきながら、文化の支配がいちじるしく比重をましているのが、国際的な、とりわけ日本の現状であり、それに対してあくまで文化・芸術・思想をとおして対抗勢力を形づくり、変革を求めるのがFIUの使命である。学習は社会的活動をとおして深化されるのであって、その点でボイスを中心とするFIU・プロジェクトには学ぶべきものが多い。とりわけ、反核・反戦・平和の問題について、従来の署名やデモをこえる表現と作品によるプロジェクトを生みだすこと、芸術の制作・発表・流通伝達の回路に横たわるさまざまの矛盾を、具体的に明らかにしてその解決をめざすプロジェクトをみいだすことは、FIU Japanの当面の課題となるだろう。
(4)FIUは日本にいくつもあっていいし、現にわたしたちと別に結成の動きもある。わたしたちは日本のFIUを独占するつもりはなく、それぞれ特徴をおびながら、たがいに連携するような機運をつくりたい。